【2026年最新】改正労働施策総合推進法対応
カスタマーハラスメント対策で企業がすべきこと

令和7年法律第63号による労働施策総合推進法の改正により、企業にはカスタマーハラスメント(カスハラ)への適切な対応が義務付けられました。本記事では、改正の背景や法律が定義するカスハラの判断基準を解説するとともに、企業が講じるべき具体的な対策を網羅的に紹介します。社内方針の策定や相談体制の整備、就業規則への反映など、実務上の必須ポイントを理解することで、従業員の安全を守り、法的な安全配慮義務を適切に履行するための具体的なアクションプランが明確になります。
1. 労働施策総合推進法改正と令和7年法律第63号の概要
令和7年、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)の改正を含む「令和7年法律第63号」が成立し、企業におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化が大きな転換点を迎えました。これまで多くの企業にとって、カスハラ対策は「推奨される取り組み」に留まっていましたが、本改正により、従業員が安心して働ける環境を整備することが企業の法的義務として明確に位置付けられました。
1.1 カスタマーハラスメント対策が義務化された背景
近年、顧客や取引先からの著しい迷惑行為であるカスタマーハラスメントが社会問題化しており、従業員のメンタルヘルス不調や離職の大きな要因となっています。特に、企業活動の最前線である現場では、カスハラが最も潜在化しやすい「電話対応」において、閉鎖的な空間で長時間拘束されることによる精神的負担が深刻化しています。こうした状況を放置することは、企業の安全配慮義務違反に問われるリスクがあるだけでなく、人材不足が加速する現代において企業の存続基盤を揺るがす事態となります。厚生労働省が公表したカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでも指摘されている通り、個人の我慢に頼る対応から、組織として毅然と対応する体制への転換が急務となっています。
特に、電話対応で収集した「録音データ」は、後に法的措置を講じる際の客観的な証拠として極めて高い価値を持ちます。
1.2 改正労働施策総合推進法で企業に求められる役割
今回の改正では、企業が取るべき対策の全体像が法的に整理されました。具体的には、ハラスメントを未然に防ぐための環境整備、発生時の迅速な対応、そして再発防止策の徹底が求められます。以下の表は、改正法に基づき企業が果たすべき主要な役割を整理したものです。
| 対策の段階 | 企業が実施すべき具体的な役割 |
|---|---|
| 未然防止 | 社内方針の明確化および従業員への周知・啓発 |
| 発生時対応 | 相談窓口の設置と被害者保護のための体制構築 |
| 再発防止 | 事実関係の迅速な調査と適切な措置の実施 |
企業は、顧客からの理不尽な要求に対して、従業員を孤立させない組織文化を醸成しなければなりません。特に、電話対応における録音の導入や、上長へのエスカレーションルールを整備することは、現場の心理的負担を軽減する上で極めて有効です。令和7年法律第63号の施行は、顧客満足度(CS)の追求と従業員満足度(ES)の保護を両立させ、持続可能な経営を実現するための法的要請であると理解する必要があります。
2. 令和7年法律第63号に基づくカスタマーハラスメントの定義
令和7年法律第63号による改正労働施策総合推進法では、企業に対してカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)への適切な対応が求められることとなりました。法的な義務を果ためには、まず何が「カスタマーハラスメント」に該当するのか、その定義を正確に理解することが不可欠です。厚生労働省が公表しているカスタマーハラスメント対策企業マニュアルでは、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。
2.1 企業が認識すべきカスタマーハラスメントの判断基準
カスハラの判断においては、「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」の2点を総合的に考慮する必要があります。たとえ顧客の要求自体に正当性があったとしても、その要求を通すための手段が脅迫的であったり、執拗であったりする場合にはカスハラとみなされます。企業は、個別の事案ごとに以下の表を用いて判断基準を明確化し、組織として一貫した対応を行うことが求められます。
| 判断要素 | カスハラに該当する可能性が高いケース |
|---|---|
| 要求内容 | 商品やサービスに瑕疵がないにもかかわらず、過度な謝罪や金銭を要求する行為 |
| 手段・態様 | 身体的な攻撃、大声での威嚇、土下座の強要、執拗な拘束、プライバシーの侵害 |
| 就業環境 | 従業員が恐怖を感じ、心身の健康を損なう恐れがある状況や、業務が長時間中断される状態 |
2.2 顧客からの著しい迷惑行為と業務への支障
カスハラの中でも特に現場で問題となりやすいのが、「電話対応」における潜在的なリスクです。対面と異なり、電話対応は密室的な環境で個人の従業員が対応を強いられることが多く、被害が周囲から見えにくいため、従業員がたった一人で暴言を耐え忍ばなければならないという構造的な欠陥があります。
こうした状況を放置することは、従業員のメンタルヘルスを急速に蝕むだけでなく、組織としての「安全配慮義務」を放棄しているとみなされる危険性すらあります。「個人のスキルで耐える」時代は終わりました。これからは、「悪質な通話自体をシステム的に制御・防御できる環境」を整えることこそが、組織として最も優先すべきカスハラ対策です。
長時間にわたる執拗な罵倒や、同じ内容を繰り返す不当な要求は、従業員の精神的な疲弊を急速に招きます。
また、こうした電話での著しい迷惑行為は、単なる一従業員の負担にとどまらず、他の顧客への対応を妨げ、組織全体の業務遂行に重大な支障をきたすことになります。改正法に基づき、企業は「個人の我慢」に依存する体制から脱却しなければなりません。電話対応の録音や、上司への即時エスカレーションルールを構築し、個々の従業員が孤立しない環境を整備することが、令和7年法律第63号が求める企業としての安全配慮義務の履行に直結します。組織として「どのような言動が業務を妨げるのか」という基準を明確に共有し、毅然とした態度で対応する姿勢を示すことが、被害を最小限に抑えるための第一歩となります。
なお、現場対応者が「自分は守られている」と実感できる具体的なエスカレーションフローの周知こそが、離職防止の最善策となります。
3. カスタマーハラスメント対策として企業がすべきこと
改正労働施策総合推進法に基づき、企業にはカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)を未然に防ぎ、発生時に適切に対応する体制構築が求められます。特に現場の従業員が孤立しないよう、組織全体で取り組むことが不可欠です。
3.1 社内方針の策定と従業員への周知徹底
企業は、カスハラを許容しない姿勢を明確に示す「カスタマーハラスメント防止方針」を策定し、社内外に公表しなければなりません。この方針には、カスハラに該当する行為の具体例や、被害を受けた従業員を組織として守るという強い意思を明記する必要があります。
方針は策定して終わりではなく、全従業員に対して定期的な研修や説明会を行い、周知徹底を図る必要があります。また、顧客に対してもWebサイトや店頭掲示などを通じて、毅然とした対応を行う旨を事前に周知することが、トラブルの抑止力となります。
3.2 相談体制の整備と被害発生時の対応フロー
カスハラ被害を受けた従業員が、一人で悩まずに相談できる環境を整備することが重要です。相談窓口の設置はもちろん、被害発生時に即座に上司や専門部署へエスカレーションできる仕組みを構築しましょう。対応の判断を現場の担当者任せにせず、組織的なバックアップ体制を整えることが、安全配慮義務を果たす上での鍵となります。
特に、カスハラが最も潜在化しやすい「電話対応」においては、録音データの活用が極めて有効です。以下の表に、電話対応時の対応フローと重要ポイントを整理しました。
| 段階 | 対応アクション | 重要ポイント |
|---|---|---|
| 初期対応 | 通話録音の開始と冷静なヒアリング | 感情的にならず、事実関係を正確に把握する |
| 判断・エスカレーション | 上司や専門部署への即時報告 | 現場の判断で謝罪や要求受諾をしない |
| 事後対応 | 記録の保存と法的措置の検討 | 厚生労働省の指針に基づき、弁護士等の専門家と連携する |
3.3 カスタマーハラスメント研修の実施と再発防止策
従業員がカスハラを正しく理解し、適切な初期対応ができるよう、実効性のある研修を実施する必要があります。座学だけでなく、ロールプレイングを通じて、毅然とした態度で要求を拒絶するスキルや、被害を受けた際の心のケア方法を習得させることが効果的です。
また、発生したカスハラ事例については、厚生労働省のカスハラ対策マニュアル等を参考に分析を行い、再発防止策を講じることが義務付けられています。対応記録をデータベース化し、組織としてのナレッジを蓄積することで、同様の事案に対する迅速な対応が可能となります。
さらに、被害を受けた従業員に対しては、産業医やカウンセラーによるメンタルヘルスケアを提供し、二次被害の防止と職場復帰のサポートを万全に行うことが、企業の責任として強く求められます。
4. 改正労働施策総合推進法に対応するための実務ポイント
令和7年法律第63号による改正労働施策総合推進法に基づき、企業にはカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)から従業員を守るための具体的な実務対応が求められます。ここでは、法遵守の観点から企業が優先的に着手すべき実務上の重要事項を解説します。
4.1 就業規則への記載と安全配慮義務の履行
労働契約法に基づく安全配慮義務を履行するためには、就業規則へのカスハラ対策に関する規定の明記が不可欠です。単なる指針の策定に留まらず、懲戒規定や禁止事項として明文化することで、企業として毅然と対応する姿勢を対外的に示すことができます。
| 項目 | 実務上の対応内容 |
|---|---|
| 就業規則の改訂 | カスハラを禁止行為として明記し、違反時の懲戒対象であることを周知する。 |
| 安全配慮義務 | 被害発生時に従業員を配置転換する等の柔軟な対応を規定に盛り込む。 |
| 法的根拠 | 厚生労働省が示す指針に基づき、企業の法的責任を明確化する。 |
4.2 顧客対応マニュアルの改訂と権限の明確化
カスハラは特に「電話対応」において潜在化しやすく、密室的なやり取りの中で従業員が精神的苦痛を抱え込むケースが後を絶ちません。マニュアルには、電話対応における具体的な「切り上げ基準」と、担当者個人の判断に委ねない権限の委譲を盛り込む必要があります。
4.2.1 電話対応におけるカスハラ対策の重要性
電話対応は録音データが残りやすい一方で、即時の判断が求められるため、従業員が追い詰められやすい環境です。マニュアルには「暴言が続いた場合は警告の上で通話を終了する」と記載するだけでは不十分です。現場の担当者が物理的に通話を遮断したり、迷惑電話を組織全体で着信拒否したりする「システム的な防御権限」を現場に与えることこそが、従業員を守る究極の鍵となります。
4.2.2 対応権限の明確化とエスカレーションルール
現場の従業員が一人で抱え込まないよう、上司や専門部署への報告・相談体制をフローチャート化してください。さらに、通話内容をAIで解析・可視化し、管理職がリアルタイムで介入できる仕組みを導入することで、現場の従業員は「自分は決して一人ではない」と実感でき、精神的な安全性が飛躍的に向上します。こうした仕組みの導入は、単なるコストではなく、従業員の離職を防ぎ、持続可能な組織を支えるための「必須のインフラ投資」と言えるでしょう。
5. まとめ
令和7年法律第63号による労働施策総合推進法の改正は、企業にとってカスタマーハラスメント対策を「推奨」から「義務」へと引き上げる重要な転換点です。従業員の心身の健康を守り、安全配慮義務を履行するためには、単なる精神論ではなく、就業規則への明記や相談窓口の設置といった実効性のある体制構築が不可欠となります。
企業は、顧客対応マニュアルの刷新や定期的な研修を通じて、現場が自信を持って毅然と対応できる環境を整えなければなりません。法改正への迅速な対応こそが、従業員の離職を防ぎ、持続可能な組織運営を実現するための唯一の道です。まずは社内方針の策定から着手し、組織全体でハラスメントを許さない姿勢を明確に示しましょう。
著者情報

宮崎 久美子
扶桑電通株式会社 ビジネス推進本部
マーケティングセンター チーフ
長年にわたり、国内大手ITグループにてIT製品のプロモーションやプリセールス業務に従事。GIS、BI、セキュリティ、RPAなど多岐にわたるソリューションのデモンストレーションやセミナー講師を経験。お客様の目線に立ち、分かりやすく魅力的に伝えることを信念としている。
現在は、扶桑電通株式会社にてチーフを務め、クラウドPBXをはじめとする自社ソリューションの魅力を多角的に発信。ナレーター経験で培った表現力と、数多くのデモ実施で得た現場感覚を武器に、お客様の課題解決に繋がるDX提案を推進している。




